自衛隊で何を学ぶか

元脱サラ自衛官の気づき

休暇前教育

お勤めご苦労様です。

 

新隊員の皆様はそろそろGW休暇の時期ですね。着隊して早1ヶ月、やることなすこと全てが監視され、本当に大変な1ヶ月だったと思います。中には入隊して早々にやめてしまった同期もいるかもしれませんが、私が所属していた教育隊でも1割ほどは最初の1週間で脱落してしまいました。今となっては彼らの名前も顔も思い出せないのですが、このような現実をみると、やはり自衛隊の文化や体質を受け入れられない人が一定の割合でいるものだなぁと思います。

 

久しぶりの投稿になりますが、本日は元脱サラ自衛官からの休暇前教育をお送りいたします。

 

周囲の人間と比べるな

GW休暇の予定はもう決まっていますか。きっと多くの人は家族や地元の友人らと会い、近況を報告することでしょう。自衛隊のことをよく知らない人たちからすれば、あなたが今まさに体験していることはまるで漫画やアニメの世界のことと思われるでしょう。そして友人らの話を聞いたあなたは、駐屯地の外で営まれている「ごく普通」の生活が羨ましく感じられると思います。

 

朝ゆっくりでいいなぁ

給料高いなぁ

大学なんて遊び放題じゃん

 

残念ながら民間企業や一般公務員、ましてや学生のご友人達とあなたとでは「立場」が違います。こんなことを行ってしまっては身も蓋もありませんが、自衛官の身分証明書を持っている限り、あなたと言う体は国に管理されているのです。(しかし精神は自由!)

 

自衛隊で何を学ぶか 

休暇中は好きな時間に起き、好きなものを食べ、好きなことをする。最高ではありませんか。でもあなたが欲しかったことってこの程度のことですか。

 

銃の分解を目をつむったままできる

困っている同期に手を差し伸べることができる

入隊前とは見違えるほど立派な体つきになる 

 

そんな自分に出会いたくはありませんか。

 

人生100年時代と言われています。仮に2年で除隊したとしてもたった2/100です。しかし今後の人生のどのフェーズにおいても、これほどまでに強烈な経験は滅多にないでしょう。

 

私自身、2年間という体験入隊に毛の生えた程度の短い期間しか在籍していませんでしたので、大きなことは言えません。しかしせっかくGWまで耐えたのだから、せめて前期教育くらいはやり抜いて欲しい、というのが正直な気持ちです。

 

GW明けはより一層訓練の厳しさが増します。休暇中、くれぐれも放縦に陥ることのないように。

 

幸運を祈ります。

 

お読みいただきありがとうございます。

*当ブログでもし自衛隊の秘密事項に関する記述がありましたらご連絡ください。早急に削除いたします。 

芸は身を助く

 
 今年度入隊した新隊員は、後期教育の終盤に差し掛かってきた頃でしょうか。後期教育は前期とは違って、職種によってその内容が大きく異なります。普通科では実践的な戦闘訓練を行うために前期教育以上の体力が求められるでしょうし、反対に後方支援系の職種では座学による専門知識の習得が求められます。職種選択に先立って行われる適性検査では、自分がどの分野に向いているかがざっくりと判定されるのですが、適正とやりたいことが一致するとは限りません。それでも前期教育が終われば、新隊員は全員、何かしらの職種を選択し、その職種で自衛隊生活を送らなければならないのです。
 

私の後期教育

 
 後期教育の実際は前期教育以上に「人による」と言えるでしょう。なぜなら職種ごとに教育内容が全く異なることに加え、本人の適正の有無が、教育を楽しいものにも辛いものにもしてしまうからです。私は後方支援系を希望し、適正有りと判断されたことから希望が通りました。そこは陸上自衛隊では数少ない「首から上」を主に使う職種でした。
 
 座学で大半の時間が占められた私の後期教育は、前期では味わえなかった優越感に浸ることが出来ました。教育中の成績は常にトップで、合格基準も早々にクリア。後期教育の生活にもどこか余裕が生まれ、苦手としていた体力錬成にも積極的に取り組むことができ、自分でも驚くほど記録が伸びました。
 
 一方で後期教育の終盤に差し掛かっても基準をクリアできない隊員もいました。本人にしてみれば、出来ないことを毎日やらされ、地獄のような日々だったでしょう。その彼は連日連夜補習を受け、営内では泣きながら親に電話していることもありました。それでもやらなければならないのが自衛隊の辛いところですが、裏を返せば「それだけ」をやれば飯を食っていけるのが自衛隊です。自衛隊では自らが希望しない限り職種が変わることは稀で、定年まで同じ職種を勤め上げます。途中で転属や事務方への異動はあるものの、原隊と呼ばれる教育後最初に配属された部隊でほとんどの時間を過ごすことになります。
 
 
 これは後期教育修了後に聞いた話ですが、特技を教える側の教官も大変なプレッシャーと不安を感じていたようです。教官は部隊から臨時で派遣されており、大抵は自らの教え子を派遣元の部隊に送り込むことになります。もしも自分の教え子の練度が低く、部隊が求める水準に達していなかったら…。そんなプレッシャーがあったからこそ、連日の補修が行われたのでしょう。
 

もし特技に自信がなかったら

  
 後期教育の内容についていけない、あるいはやっていて全然面白くない。そんな新隊員はきっと部隊へ配属されるのが怖いはずです。なぜなら教官からは部隊の恐ろしさを嫌というほど聞かされているでしょうし、何より部隊にはその職種で何年何十年と食ってきた人たちが待ち構えているからです。
 
 
 そんな新隊員に私から何か言葉を送るとすれば、新隊員の優秀さは特技の練度では決まらない、ということです。もちろん特技が素晴らしいことに越したことはありませんが、以下にあげられるようなことも、立派な特技だと思うのです。
 
 
笑いのセンスが抜群で、先輩隊員から可愛がられる
特技はダメでも、首から下なら誰にも負けない
特技も体力もダメだが、とにかく素直で気が利く
紹介できる女の子をたくさん知っている
 
 
 最後のは冗談だとしても、新隊員に求められるのはいかに早く部隊に溶け込むかです。たとえ同期の中で成績がトップで優秀だと評価されていても、それは「新隊員としては」という条件つきです。部隊に着隊することは、本当の意味で自衛官になることです。異なる価値観、不慣れな環境、理不尽な命令。それらに適応できるかが問われているのです。
 
 
 ほとんどの新隊員にとっては、自衛隊の部隊が初めての「職場」になるかと思います。最初は部隊に違和感を感じるかもしれませんが、自分と似たような先輩がいるはずですので、よく観察してみることをお勧めします。自衛隊で生き残る「知恵」を学びとることができるしょう。
 

これから自衛隊に入る君へ

 

 

  3年前、僕は陸上自衛隊に入隊した。補欠合格の通知を受けたものの、待てど暮らせど地本から正式合格の連絡が来ないのでほとんど諦めていたが、着隊2日前の夜、ついにその知らせは来た。

 

「明後日、xx駐屯地に来てください。詳しい内容はこれからFAXで送ります。」

 

  自衛隊はいつだって急だ。もしかしたらこれが自衛隊の洗礼だったのかもしれない。連絡を受けた翌日、僕は高校・大学・役所を慌ただしく周り、なんとか1日で必要な書類をかき集めた。

  あの時と今を比べると、自衛隊を取り巻く環境はますます複雑化しているように思える。政治や国防に関心がない人でも、家族や友人が自衛隊に入るというとになれば、一抹の不安を抱くはずだ。

  改めて書くと、僕が自衛隊入隊を決めるに至った最大の理由は、自分を見つめ直したかったからだ。とにかく1人の時間を確保し、本を読み、思考する。それができる環境ならば、正直どこでも良かった。それでもなぜ自衛隊かというと、自分が生まれ育った国についても深く考えることができると思ったからだ。集団的自衛権、憲法改正、東日本大震災・・・。自衛隊に入ることは、日本という国について誰よりも深く考えることになる。僕はそう信じて疑わなかった。

 

  ところが入隊直後は自由な時間なんて1日で数分から数十分しかなく、本どころかスマホにすら触れない日も珍しくなかった。休日も単独での外出行動は許されず、班員とゲーセンやボーリング場、スーパー銭湯を巡った。最初はこんなはずじゃなかったという気持ちも抱いたが、僕はこれで良かったと思っている。

 

  インターネットを通して、今やあらゆる情報が簡単に手に入る。そのことは良くも悪くも僕たちに未来予測を強いる。僕も事前の情報では自衛隊は勤務は朝8時から夕方5時、しかも土日休みと聞いていたから、さぞかし大量の本を読めるのだろうと思っていた。が、その期待は無残に裏切られた。このとき僕は諦めの気持ちを抱くと同時にある言葉を思い出した。

 

予測された未来に幸福はない

 

確かイギリスの政治学者の言葉だと思ったけど、調べても出てこない。

 

これをやっておけば将来得をする
この会社なら将来は安泰だ
どうせ年金は破綻する

 

  誰もが一度は考えたことがあるかもしれないが、思った通りにならないのが人生の面白いところだと思う。そうだからこそ、不確実性、つまり予測が外れた時に与える影響が大きく感じられるのかもしれない。

 

  教育を終え、部隊に行けば状況は変わるはずと思っていたが、ここはここで組織の末端としての雑用が待っていた。きっと普通ではありえないような命令を先輩からされるだろうが、それが自衛隊だ。年食いで入隊する人は、当然年下の先輩にも敬語を使わなければならない。部隊によっては教育隊よりも辛いと聞くが、どうにか自分なりの解決策を自分で考え出して欲しい。どんな経緯があったにせよ、自衛隊に入るという最終的な決断をしたのは、疑うことなく君自身だ。だから自衛隊での生活が嫌になったとしても、「本当は入りたくなかった」なんて口にしないで欲しいし、与えられた環境で最善を尽くして欲しい。

 

  ここまで読んで自衛隊での生活に失望しただろうか。さすがにこのまま終えるのでは後味が悪いので、僕の好きな本を1冊だけ紹介したいと思う。

  堀江貴文氏の『刑務所わず』だ。

  今年高校を卒業して自衛隊に入る年代の人にはもしかしたら堀江氏のことをよく知らない人がいるかもしれない。かつてプロ野球近鉄バファローズの買収に名乗りを上げたり、とにかくやることが派手で目立っていたIT企業経営者だ。当時の僕は中学生だったけど、今までに見たことがないタイプの「凄い人」という印象を持っていた。

 

  そんな堀江氏がある日逮捕され、2年近く刑に服した。

  刑務所では主に高齢受刑者の介護をしていたという。逮捕前の華やかな生活からは想像できないことだったと思う。しかし堀江氏はそのような環境でも才能を発揮した。インターネットに繋がらなければひたすら本を読み、作業が非効率であれば徹底的に改善する。本の中ではコミカルなタッチで描かれているが、時折入る堀江氏の問題提起が僕には新鮮だった。多くの人にとって刑務所の中の生活は無縁だし、興味も抱かない。しかし堀江氏ほどの頭脳・影響力がある人が発信することで、刑務所という存在が少しだけ身近なものに感じられる。(実際、僕は堀江氏がいた須坂刑務所に足を運んだ)

 

  そして僕はこの本から「才能は隠せない」ということを学んだ。

 

  教育隊では基本教練、体力錬成、座学、射撃など内容は盛り沢山だが、必ず得意不得意はある。僕は銃の分解結合が大の苦手で、教育隊の中では最劣等生だった。反対に何をやらせても鈍臭いのに、銃の分解結合だけは異常に速い隊員もいた。これらは分かりやすいものだが、複雑な紐の結び方をいとも簡単に覚えられるのはきっと空間認識能力が高いからだと思うし、人の気持ちが分かるのは共感力が高いからだということができると思う。とにかく教育隊では命令されたことはやらなければならないのだから、初めてやることであっても全力で取り組んで欲しい。その上でどうしてもダメなら、きっとそれは君には向いていないだけなのであり、他の向いていることを見つけるまでだ。教育期間中は常に時間に追われることになると思うが、そのような状況に置かれて初めて自分の才能に気づくのかも知れない。

 

  ありきたりな言葉だけど、人生に無駄なことなんて1つもない。僕は1任期2年間しか自衛隊にいなかったけど、学校や会社では得られない情報・知恵に触れられたと思っている。毎朝ラッパの音で起きていたことも、今となっては懐かしい。

 

 

 それでは、 健闘を祈る。

 

 

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タバコとコーヒー

 何も自衛官に限ったことではありませんが、社会に出て働いていると人間は少なからずストレスを感じるものです。仕事の生産性を維持するためにも最低限の休憩は必要ですが、その時に欲しくなるのが嗜好品。今回はその代表格であるタバコとコーヒーについて書いていきます。

 

究極の肉体労働

 世の中には実に多くの職業があります。大別すると肉体労働と精神労働(頭脳労働・感情労働とも)とに分けられるのですが、教育を終えた新隊員が所属する部隊では、ほとんどが体を酷使する肉体労働だと思われます。事実、私は後方支援系の職種でしたが、年間を通して行われる演習場訓練では、今までに経験したことがない疲労・ストレスを感じました。

 

 肉体的な疲労・ストレスに対しては、ある程度の物理的対処が必要となってきます。食事や睡眠はもちろんですが、自衛隊の訓練のように過度に体力を消耗するものについては、チョコレートや飴などの糖分を積極的に補給しなければなりません。ちなみに私が所属していた部隊では、複数日にわたる訓練時には戦闘糧食に加えて「増加食」と呼ばれるカップラーメンやカロリーメイト的なものが支給されていました。では実際の訓練においてこれらだけで事足りるかといえば、もちろんそんなことはありません。社会で働く多くの労働者と同様、自衛官もタバコとコーヒーがないとやっていけないのです。

 

労働者の嗜み

 労働、すなわち働くことは傍(はた)にいる人を楽にすることだ、と言われたりもしますが、どうやらこれは間違いのようで、語源としては文字どおり「人」が「動く」ことからきているようです。人間は大人になったら働くものだ、という考えはおそらく世の大多数を占めるのでしょうが、さらにその大半は自分の意思に背いて働いているのではないでしょうか。でなければこれだけ多くのコーヒーやタバコが消費されるはずがありません。

 

 私は自衛隊を退職後、半年ほどをかけて海外を回ったのですが、どこの国でも労働者たちはスマホを片手にコーヒーとタバコを嗜んでいました。途上国の肉体労働者はもちろんですが、意外なところではシンガポール・チャンギ国際空港の喫煙所でも、次から次へと女性キャビンアテンダントが一服しに来ていました。かつて大英帝国で産業革命が起こり、資本を持たない多くの人々は一労働者として歯車のように働くことを期待されました。当時、紅茶と砂糖の需要が逼迫したのは、その労働者たちの糖分補給に必要だったからでしょう。 そしてどうやらその構図は、スマホという新たな必需品を加えて現代まで続いているようです。

 

タバコという必需品

 

 グローバル資本主義が発達した現代社会においては、多くの国で紅茶・緑茶がコーヒーに置き換わりましたが、タバコだけは昔も今も健在のようです。タバコは百害あって一利なし、とよく言われますが、これだけ健康への悪影響がありながらも吸われ続けているには、リラックス効果や脳の覚醒など、それなりの効果があるからでしょう。

 

 歴史を遡ると、第二次世界大戦時には軍用タバコなるものが日本にも存在していたようです。また、当時は国家総動員法が施行されていましたから、タバコという嗜好品すら国の管理下にあったのか、と読み流してしまいそうですが、重要なのはタバコが兵士にとって必需品だと考えられていたことです。戦争映画をよく見る方ならイメージが湧くでしょうが、兵士がタバコを吸うというのは当たり前というか、完全に習慣の一つです。実際に2005年のアメリカ合衆国での調査でさえ、民間人の喫煙率が21%なのに対し、軍人の喫煙率が32.2%と出ており、今も兵士とタバコの関係は密接だと考えられます。もちろん米軍と日本の自衛隊とでは状況があまりにも違うため、一概には比べられません。しかし私の感覚では自衛官の喫煙率は一般平均よりも高いという印象です。(ちなみに平成26年度の日本人男性の喫煙率は32%)

 

 世界的には脱タバコの流れなのでしょうが、私はあえてタバコを否定しません。もちろん健康を考慮すれば吸わない方が良いに決まっています。しかし2年間の自衛隊生活を経た私が言えることは、タバコに救われることもあるということです。私は非喫煙者として入隊しましたが、数日のあいだ夜を徹して行われる訓練時には、さすがに何か刺激がないと体が持たないと感じました。途中離脱だけはなんとか避けたかった私は、同期にタバコを一本もらい、まずいインスタントコーヒーとともに吸いました。もちろんこれが初めてのタバコという訳ではなかったのですが、久しぶりの喫煙に若干のヤニクラを覚えながらも、私はあと一踏ん張りだと再び生気を取り戻したのです。

 

 『自殺よりはセックス』という村上龍の本がありますが、人間、死んだら終わりです。思い詰めて取り返しがつかなくなる前に、何でもいいから快楽を求めるのは悪いことではないはずです。私自身、現在はタバコは吸いませんが、もし再び追い詰められても久しぶりにタバコでも吸ってみるか、と考えるかもしれません。その時はきっと、自衛隊生活が懐かしまれるのでしょう。

 

 

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人生を変える3ヶ月

 一体何の広告だと思った方もいるかもしれません。しかし自衛隊生活、特に自衛官候補生課程を振り返るにあたり、どうしてもこのフレーズを用いないわけにはいかないと思ったのです。

  

自衛隊に入るということ

 

 一口に自衛隊に入ると言っても、上は幹部候補生から下は自衛官候補生まで、間口は様々です。ここではもっとも試験が簡単で、かつ私が経験した自衛官候補生課程について書いていきます。自衛隊は、組織上は陸・海・空の3つに分かれていますが、入隊にあたっての試験は共通です。私は希望通り陸上自衛隊への入隊になりましたが、各自衛隊の充足状況によっては希望が叶わないこともあります。候補生課程修了後の後期教育及び部隊配属でもそうですが、本人の意思ではなく組織の都合が優先される、ということは、自衛隊を志すに当たって知っておいて損はないでしょう。

 

 

自衛官候補生の頭髪

 

 自衛官候補生としての入隊が決まると、指定の日時に指定の駐屯地へ行くことになります。そこでは各種手続きや身体測定などが行われるのですが、多くの方が予想されているように、即日、頭を丸められます。ここではこの日を惜しむかのように茶髪で入隊してきた強者や、逆に事前に坊主にしてきた用意周到な者がいるなど、それぞれの個性が垣間見える瞬間でもあります。私は中学生以来、実に10年ぶりに坊主にしたのですが、鏡に映る自分の姿があまりにおかしく、思わず笑い出してしまった記憶があります。

 

  この強制坊主ということに異論がある方もいると思いますが、私は経済的な観点からメリットを見出します。それは多くの、いやほとんど全ての新隊員が、休日になると帽子を着用して外出している事実です。20歳前後といえばただでさえ見た目に気を使う年頃ですから、何としても坊主頭は隠したいでしょう。かくいう私も、恥ずかしながらニット帽を新調し、外出していました。ちなみに平成28年度の募集状況を見ると、自衛官候補生及び一般曹候補生は陸上自衛隊だけで9,000人以上にのぼります。彼らが入隊する4月前後にこぞってキャップやニット帽を新調するとなると、アパレル業界にとっては無視できない経済効果ではないでしょうか。

 

多彩なバックグラウンド

 

 冗談はさておき、自衛官候補生の内訳について書いていきます。私が入隊して驚いたのは、以前も書きましたが地元出身者の多さです。陸・海・空を問わず、自衛隊は全国勤務というのが前提条件にあるのですが、私が教育を受けた某駐屯地では、私を除くほぼ全員が県内出身、あるいは県内の学校に通っていたのです。入隊前に何をしていたかを聞くと、半数近くは現役の高校生、そして残りの半数が専門学校生・大学生・社会人が同じような比率で占めていました。社会人経験者の中には、私のようにサラリーマンをしていたもの、工事現場でバリバリの肉体労働をしていたものなど、業界は様々でした。しかし入隊直前まで学生であったか社会人であったかに関係なく、自衛隊に入ったことで職業が変わったことに違いはありません。そして住む所が駐屯地の中という非日常的な場所に変わったことも。

 

人生を変える、とは

 

 私が以前読んだある自己啓発本によると、手っ取り早く人生を変えるには次の3つが有効だとあります。

 

1. 見た目を変える 

2. 住む場所を変える

3. 仕事を変える

 

  一つ目の見た目を変えることは、簡単なところだと服装や髪型を変えることが当てはまるでしょう。イメチェンなどと言って気軽にできることですが、ちょっと勇気がいることもあります。見た目を変えることの究極は整形なのでしょうが、実際に整形した人は性格まで変わってしまうこともあるといいますから、見た目の影響は侮れません。

 

 二つ目の住む場所はどうでしょうか。見た目よりもやや難易度は高いですが、ある程度のお金があれば、実家暮らしをやめて一人暮らしをする、といったこともできそうです。また、住む場所を変えれば当然、普段目にするものも変化するはずです。利用する店や交通手段も変わるでしょうし、何かと人生に変化が起きそうです。

 

 最後の仕事を変えることは、私がまさにそうですし、就職や転職を経験した人ならば理解できることだと思います。1日に占めるに仕事の時間はあまりに多く、中にはプライベートの人間関係も仕事上の繋がりが中心、という人もいるかと思います。しかし転職や退職でその仕事から離れれば、それまでの関係が嘘のように変化します。退職届という紙切れ一枚ですが、実行するにはそれなりの準備・覚悟が必要でしょう。

 

習慣の力

 

 ここまでで、なぜ今回のタイトルが人生を変える3ヶ月なのか、お分りいただけたと思います。それは自衛隊に入る(自衛官候補生になる)ということは、半強制的に見た目が変わり(もともと坊主の人は除く)、住む場所が変わり、仕事が変わることなのです。その仕事内容も、入隊前に同じようなことをやっていたという人はほとんどいないのではないでしょうか。候補生課程ではラッパでの起床に始まり、毎日の清掃、体力錬成、そして赤の他人との共同生活に終始します。私の知る限り、これともっとも近い環境は刑務所ではないかと思うのです。私は元ライブドア社長の堀江貴文氏による一連の著書を読んだのですが、決まった時間に決まったことをする、という点ではまさに同じだと思いました。

 

 約3ヶ月に渡る自衛官候補生。確かにそれまでの生活とは一変しますが、これはきっかけに過ぎないと私は考えています。自衛官に必要な技能や知識はもちろんですが、候補生が何よりも学ばなければならないことは、自衛官としての心構えです。この3ヶ月という時間は、上述した新しい習慣と自衛官としての心構えを体で覚えるための最低限必要な時間なのではないかと思うのです。

 

 

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銃の重さ

 自衛隊に入って最も衝撃的だったことは、やはり本物の銃を目にした時だったと思います。陸上自衛隊では入隊して1週間程経った頃、各隊員に1丁ずつ貸与されます。それまで延々と反復演練してきた敬礼や行進もさることながら、銃授与式では今までとは違う世界に足を踏み入れてしまったことを感じさせます。今回は武力の象徴とも言える「銃」について考えいきたいと思います。

 

銃=バディ

 教育隊で銃が貸与された時、班長からは自分の銃に名前をつけるように言われました。私はこの指示を聞いた時、「そんばバカバカしいことできるか」と内心思ったのですが、考えてみれば兵士にとって銃とは、自らの命を守ってくれる唯一の道具です。そして銃は教育期間中だけに留まらず、部隊に配属された後も必ず使い続けるものです。「銃に愛着を持つ」というと変な感じがしますが、逆に銃に対して余計な感情を抱いていると、身につくものも身につきません。新隊員を指導する班長は、限られた時間の中で銃の取り扱いや分解・結合、さらには射撃まで教えなければならない為、1日でも早く銃に慣れて欲しかったのでしょう。私の周囲の隊員たちは彼女の名前や好きなアイドルの名前などをつけて、ちょっと誇らしげな表情を浮かべていました。

 

 そんな銃ですが毎日のように触れたり担いだりしていると、あっという間に珍しいものではなくなります。むしろ射撃予習と言われる訓練では連日のように銃を扱うので、完全に銃が日常の一部になると言ってもいいでしょう。3.5kgという物理的な重さならば銃を持ったことがない人でもわかると思いますが、銃を持つことの心理的な重さはやはり実際に手にしたことがある人しか解り得ないと思います。しかしそれを言ってしまえばこのブログの意味がなくなってしまうので、拙い文章ですが私なりに言葉で説明してみたいと思います。

 

銃とは何か

 漫画『ライジングサン』では、「銃は人を殺す以外の使い道などない」という衝撃的な言葉が登場します。これは銃授与式の中で教育隊長が新隊員に対して述べたものですが、見事に本質を突いていると思いました。有史以来、人間は争いを繰り返し、古代のチャリオットから現代の核に至るまで多種多様な武器を「発明」してきました。その中でも銃は個人が高い殺傷能力を持ったという点で歴史の大きな転換点になったと思います。

 

 平和な日本においては、街中で銃を見るということはまずありませんが、フィリピンやアメリカ合衆国といった治安の悪い国、あるいは銃社会の国々では、銃を携えた兵士・ガードは日常的に見ることができます。一般的な日本人の感覚からすると、銃=危険という思考が簡単に成立しますが、上記の国々では銃があるからこそ平和が維持される、という考えもあるようです。実際フィリピンを訪問した時には、「銃を持ったガードがいることで安心して買い物ができる」という話も聞きました。また、近年発生してるテロにより、フランスやドイツなどでも銃を持った兵士を街中で見かけるようになりました。日本では自衛隊が実弾の入った銃を持って街中に出るということはまず考えられませんが、防衛出動や治安出動が法律で定められている以上、決してあり得なくはない、ということを覚えておいても良いでしょう。

 

銃と向き合う

 私は陸上自衛隊に入るまでは本物の銃を見たことがありませんでした。しかし教育が終わり、部隊での訓練・射撃、更には警衛などで何回も銃を取り扱ううち、だんだんと緊張感が薄れていったことは事実です。しかし厳重に施錠された武器庫を見る度に、その中に入っているものの重さを確認させられるのです。また、銃は陸上自衛隊の各隊員に貸与される装備の中では最も高額なものだと思います。部品一つ無くなっただけでも銃としては使い物にならないのですから、分解・結合の時には特に神経を使ったのを覚えています。

 

 自衛隊を退職するにあたり、戦闘服や装具と合わせて銃も返納するのですが、この時の正直な気持ちは「ホッとした」というものです。任期満了退職であればそれほど自衛隊に未練はないと思うので、数年ぶりの自由な生活に戻れることの喜びが大きいのだと思います。しかし私は任期満了退職であったものの、自由への喜びよりも銃を手放せたことの安心感が大きかったのです。銃を持つたびに感じていた緊張感と、有事の際には自分が引き金を引くかもしれないという可能性。私は物事を深刻に考えてしまいがちなので、このような感情を抱いたのかもしれません。しかし現実問題として、この世界に無数の武器が存在している限り、私たちは武器について考える、あるいは知る必要があるでしょう。そういった点では、私が銃に触れた2年間は意味のあるものだったと確信しています。

 

参考:89式5.56mm小銃(陸上自衛隊HP)

陸上自衛隊:火器・弾薬

 

  

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自衛隊の飯②野外訓練編

 だいぶ時間が空いてしまいましたが、前回に引き続き、自衛隊の飯事情について記していきます。

 

 

戦闘糧食とは

 陸上自衛隊では、野外(駐屯地以外)で訓練が行われる際には、戦闘糧食と呼ばれる専用の食事が支給されます。いわゆるミリ飯なのですが、これにはⅠ型(缶タイプ)とⅡ型(レトルトタイプ)があり、どちらのタイプも食べるためにはボイル(Ⅱ型であれば専用の加熱剤でも可)する必要があります。しかし食べやすさや味、ゴミの処理を考えると、Ⅱ型の方が総じて優れていることは疑いようがありません。訓練の時にはこの戦闘糧食が人x食数分支給され、空いた時間に素早く食するのです。

 

訓練時の飯

 そうはいっても一人ひとりが戦闘糧食をボイル・加熱したりするのでは効率が悪すぎます。一部の部隊を除き、軍隊は一般に組織で作戦を遂行するものなので、訓練時にはある程度まとまった人数で行動します。そこで組織の最小単位(分隊・班・組など)で戦闘糧食の数を取りまとめ、管理するのが一般的です。私も新隊員の頃は戦闘糧食の数や種類を掌握し、訓練初日分のボイルを食堂に依頼していました。訓練は何と言っても準備が全てです。それは飯についても全く同様で、数が足りない、ボイルされてない、というのは部隊にとって致命的です。また、「食い物の恨みは恐ろしい」という言葉がある通り、訓練における飯関連のミスは今後の人間関係にも影響を及ぼしかねません。

 

 そんな戦闘糧食ですが、食べ方に各人の個性が出ていて面白いものがありました。私の部隊には入隊以来、あらゆる教育課程で表彰を受けてきた優秀な陸曹がいました。私とはMOS(Military Occupational Speciality=特技)が違ったのですが、たまたま訓練で行動を共にする機会があり、昼食を一緒に摂ることになりました。私とその先輩はほぼ同時に食事を摂り始めたのですが、2~3分ほど経つと先輩は徐ろに立ち上がり、タバコを吸いに行くと言って私から離れていきました。私はまさかと思って先輩がいた場所を見ると、そこには綺麗に完食された戦闘糧食Ⅱ型が置いてあったのです。私はこの時、日本電産株式会社の永守社長のある言葉を思い出したのです。

 

飯の速い奴は、仕事も速い。

 

 

 圧倒的に仕事ができる先輩の圧倒的な早食いを目の当たりにした私は、いつしかこの言葉を本気で信じるようになりました。

 

 

肝心なお味は

 わずか2年間という短い期間でしたが、私も数多くの戦闘糧食を食してきました。種類は20ほどで、いずれもしっかりとした味付けだったと記憶しています。一般の人が食べても、温かい状態であれば多くの人が美味しいと感じるはずでしょう。ただし、あくまで訓練中の喫食を想定しているので、カロリーや塩分は通常より高めかもしれません。

 

 関連リンク: 特集:「ミリメシ」(戦闘糧食)シリーズ5|東北方面隊Web

 

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