自衛隊で何を学ぶか

元脱サラ自衛官の気づき

タバコとコーヒー

 何も自衛官に限ったことではありませんが、社会に出て働いていると人間は少なからずストレスを感じるものです。仕事の生産性を維持するためにも最低限の休憩は必要ですが、その時に欲しくなるのが嗜好品。今回はその代表格であるタバコとコーヒーについて書いていきます。

 

究極の肉体労働

 世の中には実に多くの職業があります。大別すると肉体労働と精神労働(頭脳労働・感情労働とも)とに分けられるのですが、教育を終えた新隊員が所属する部隊では、ほとんどが体を酷使する肉体労働だと思われます。事実、私は後方支援系の職種でしたが、年間を通して行われる演習場訓練では、今までに経験したことがない疲労・ストレスを感じました。

 

 肉体的な疲労・ストレスに対しては、ある程度の物理的対処が必要となってきます。食事や睡眠はもちろんですが、自衛隊の訓練のように過度に体力を消耗するものについては、チョコレートや飴などの糖分を積極的に補給しなければなりません。ちなみに私が所属していた部隊では、複数日にわたる訓練時には戦闘糧食に加えて「増加食」と呼ばれるカップラーメンやカロリーメイト的なものが支給されていました。では実際の訓練においてこれらだけで事足りるかといえば、もちろんそんなことはありません。社会で働く多くの労働者と同様、自衛官もタバコとコーヒーがないとやっていけないのです。

 

労働者の嗜み

 労働、すなわち働くことは傍(はた)にいる人を楽にすることだ、と言われたりもしますが、どうやらこれは間違いのようで、語源としては文字どおり「人」が「動く」ことからきているようです。人間は大人になったら働くものだ、という考えはおそらく世の大多数を占めるのでしょうが、さらにその大半は自分の意思に背いて働いているのではないでしょうか。でなければこれだけ多くのコーヒーやタバコが消費されるはずがありません。

 

 私は自衛隊を退職後、半年ほどをかけて海外を回ったのですが、どこの国でも労働者たちはスマホを片手にコーヒーとタバコを嗜んでいました。途上国の肉体労働者はもちろんですが、意外なところではシンガポール・チャンギ国際空港の喫煙所でも、次から次へと女性キャビンアテンダントが一服しに来ていました。かつて大英帝国で産業革命が起こり、資本を持たない多くの人々は一労働者として歯車のように働くことを期待されました。当時、紅茶と砂糖の需要が逼迫したのは、その労働者たちの糖分補給に必要だったからでしょう。 そしてどうやらその構図は、スマホという新たな必需品を加えて現代まで続いているようです。

 

タバコという必需品

 

 グローバル資本主義が発達した現代社会においては、多くの国で紅茶・緑茶がコーヒーに置き換わりましたが、タバコだけは昔も今も健在のようです。タバコは百害あって一利なし、とよく言われますが、これだけ健康への悪影響がありながらも吸われ続けているには、リラックス効果や脳の覚醒など、それなりの効果があるからでしょう。

 

 歴史を遡ると、第二次世界大戦時には軍用タバコなるものが日本にも存在していたようです。また、当時は国家総動員法が施行されていましたから、タバコという嗜好品すら国の管理下にあったのか、と読み流してしまいそうですが、重要なのはタバコが兵士にとって必需品だと考えられていたことです。戦争映画をよく見る方ならイメージが湧くでしょうが、兵士がタバコを吸うというのは当たり前というか、完全に習慣の一つです。実際に2005年のアメリカ合衆国での調査でさえ、民間人の喫煙率が21%なのに対し、軍人の喫煙率が32.2%と出ており、今も兵士とタバコの関係は密接だと考えられます。もちろん米軍と日本の自衛隊とでは状況があまりにも違うため、一概には比べられません。しかし私の感覚では自衛官の喫煙率は一般平均よりも高いという印象です。(ちなみに平成26年度の日本人男性の喫煙率は32%)

 

 世界的には脱タバコの流れなのでしょうが、私はあえてタバコを否定しません。もちろん健康を考慮すれば吸わない方が良いに決まっています。しかし2年間の自衛隊生活を経た私が言えることは、タバコに救われることもあるということです。私は非喫煙者として入隊しましたが、数日のあいだ夜を徹して行われる訓練時には、さすがに何か刺激がないと体が持たないと感じました。途中離脱だけはなんとか避けたかった私は、同期にタバコを一本もらい、まずいインスタントコーヒーとともに吸いました。もちろんこれが初めてのタバコという訳ではなかったのですが、久しぶりの喫煙に若干のヤニクラを覚えながらも、私はあと一踏ん張りだと再び生気を取り戻したのです。

 

 『自殺よりはセックス』という村上龍の本がありますが、人間、死んだら終わりです。思い詰めて取り返しがつかなくなる前に、何でもいいから快楽を求めるのは悪いことではないはずです。私自身、現在はタバコは吸いませんが、もし再び追い詰められても久しぶりにタバコでも吸ってみるか、と考えるかもしれません。その時はきっと、自衛隊生活が懐かしまれるのでしょう。

 

 

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