自衛隊で何を学ぶか

元脱サラ自衛官の気づき

理不尽な反省

自衛隊の教育について少しでも話を聞いたことがある人は、必ずこんな質問をします。

 

 

「やっぱ、腕立てとかやらされんの?」

 

 

率直に言ってしまえば、答えはイエスです。

 

特に前期教育と呼ばれる入隊後3ヶ月は、腕立てをやらない日の方が少ないでしょう。回数は反省の度合いによって異なりますが、時として理不尽としか言いようのない回数・時間をやらされます。多くの新隊員、そしてこれを読んでいる方は、これらの行為を「本当にそこまでやる必要があるのか」という疑問を抱くと思います。私もそうでした。大学時代に少し齧ったスポーツ科学の理論に照らし合わせても、この腕立て伏せの回数・ペースは筋力の発達に効果的ではない、と。

 

しかし自衛隊の職務の特殊さを知れば知るほど、これらの理不尽な反省がこの教育期間中に必要であることがわかってきたのです。

 

 

自衛隊が実働するときは、常に理不尽な環境である

みなさんが自衛隊をテレビで見るとき、日本はどんな時ですか?

 

記憶に新しいのは2015年9月に発生した関東・東北豪雨災害。この時、茨城県常総市では鬼怒川堤防が決壊し、自衛隊のヘリコプターが救助に駆けつけました。また、忘れてはならない2011年の3.11。東日本を襲ったこの未曾有の大災害でも多くの自衛官が人命救助、瓦礫の撤去などの作業にあたりました。

 

 

お分かりの通り自衛隊が実働する時、多くは地震や土砂災害などでその場所にいる人の命が危ぶまれているときです。また、自衛隊の一番の任務は、我が国の平和と独立を守ることです。簡単に言ってしまえば戦争が起こったときですが、これは自らの命すら危ぶまれる、究極に理不尽な環境と言えるでしょう。

 

 

何のために、腕立て伏せをやるのか

今でも教育期間中の厳しい反省を思い出すときがあります。暗闇の中で整列させられ、教官の号令のもと一斉に腕立て伏せの姿勢をとる新隊員。通常の社会ではまず見られない、異様な光景だと思います。そして教官からのこんな激しい罵声が響き渡るのです。

 

 

「根性ねぇな!」

「出来ねぇなら辞めろ!!」

 

しかし、こんな言葉もありました。

 

「そんなんで人救えんのか!?」

「お前がやんなきゃいけねぇんだよ!!」

「上げろぉ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

気づいたら私は腕立て伏せをしながら泣いていました。決してキツイからではありません。ただ、教官たちが鬼のような形相で叫び、何かを伝えようとしていたのを感じたからです。東北地方に所在するこの駐屯地も、先の3.11では多くの隊員が災害派遣に向かったと聞きました。直接確認したわけではありませんが、教官の中にもいたはずです。それを思うと、こんな腕立て伏せごときでへばってたまるか、と私は奮い立ちました。

 

 

地震や自然災害がそうであるように、この腕立て伏せの反省はいつ、どこで起こるか全く予想できませんでした。それはすなわち、いつでも物心両面の準備を怠るなという教官からの無言メッセージだったと理解しています。この腕立て伏せは筋力の発達には決して効果的とは言えません。しかし、私たちがこの教育期間で学ばなければならことは、何よりも自衛官としての心構えです。その為に、私はこの理不尽な反省が絶対に必要なものだと思うのです。

 

 

お読みいただきありがとうございます。

 

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