自衛隊で何を学ぶか

元脱サラ自衛官の気づき

これから自衛隊に入る君へ

 

 

  3年前、僕は陸上自衛隊に入隊した。補欠合格の通知を受けたものの、待てど暮らせど地本から正式合格の連絡が来ないのでほとんど諦めていたが、着隊2日前の夜、ついにその知らせは来た。

 

「明後日、xx駐屯地に来てください。詳しい内容はこれからFAXで送ります。」

 

  自衛隊はいつだって急だ。もしかしたらこれが自衛隊の洗礼だったのかもしれない。連絡を受けた翌日、僕は高校・大学・役所を慌ただしく周り、なんとか1日で必要な書類をかき集めた。

  あの時と今を比べると、自衛隊を取り巻く環境はますます複雑化しているように思える。政治や国防に関心がない人でも、家族や友人が自衛隊に入るというとになれば、一抹の不安を抱くはずだ。

  改めて書くと、僕が自衛隊入隊を決めるに至った最大の理由は、自分を見つめ直したかったからだ。とにかく1人の時間を確保し、本を読み、思考する。それができる環境ならば、正直どこでも良かった。それでもなぜ自衛隊かというと、自分が生まれ育った国についても深く考えることができると思ったからだ。集団的自衛権、憲法改正、東日本大震災・・・。自衛隊に入ることは、日本という国について誰よりも深く考えることになる。僕はそう信じて疑わなかった。

 

  ところが入隊直後は自由な時間なんて1日で数分から数十分しかなく、本どころかスマホにすら触れない日も珍しくなかった。休日も単独での外出行動は許されず、班員とゲーセンやボーリング場、スーパー銭湯を巡った。最初はこんなはずじゃなかったという気持ちも抱いたが、僕はこれで良かったと思っている。

 

  インターネットを通して、今やあらゆる情報が簡単に手に入る。そのことは良くも悪くも僕たちに未来予測を強いる。僕も事前の情報では自衛隊は勤務は朝8時から夕方5時、しかも土日休みと聞いていたから、さぞかし大量の本を読めるのだろうと思っていた。が、その期待は無残に裏切られた。このとき僕は諦めの気持ちを抱くと同時にある言葉を思い出した。

 

予測された未来に幸福はない

 

確かイギリスの政治学者の言葉だと思ったけど、調べても出てこない。

 

これをやっておけば将来得をする
この会社なら将来は安泰だ
どうせ年金は破綻する

 

  誰もが一度は考えたことがあるかもしれないが、思った通りにならないのが人生の面白いところだと思う。そうだからこそ、不確実性、つまり予測が外れた時に与える影響が大きく感じられるのかもしれない。

 

  教育を終え、部隊に行けば状況は変わるはずと思っていたが、ここはここで組織の末端としての雑用が待っていた。きっと普通ではありえないような命令を先輩からされるだろうが、それが自衛隊だ。年食いで入隊する人は、当然年下の先輩にも敬語を使わなければならない。部隊によっては教育隊よりも辛いと聞くが、どうにか自分なりの解決策を自分で考え出して欲しい。どんな経緯があったにせよ、自衛隊に入るという最終的な決断をしたのは、疑うことなく君自身だ。だから自衛隊での生活が嫌になったとしても、「本当は入りたくなかった」なんて口にしないで欲しいし、与えられた環境で最善を尽くして欲しい。

 

  ここまで読んで自衛隊での生活に失望しただろうか。さすがにこのまま終えるのでは後味が悪いので、僕の好きな本を1冊だけ紹介したいと思う。

  堀江貴文氏の『刑務所わず』だ。

  今年高校を卒業して自衛隊に入る年代の人にはもしかしたら堀江氏のことをよく知らない人がいるかもしれない。かつてプロ野球近鉄バファローズの買収に名乗りを上げたり、とにかくやることが派手で目立っていたIT企業経営者だ。当時の僕は中学生だったけど、今までに見たことがないタイプの「凄い人」という印象を持っていた。

 

  そんな堀江氏がある日逮捕され、2年近く刑に服した。

  刑務所では主に高齢受刑者の介護をしていたという。逮捕前の華やかな生活からは想像できないことだったと思う。しかし堀江氏はそのような環境でも才能を発揮した。インターネットに繋がらなければひたすら本を読み、作業が非効率であれば徹底的に改善する。本の中ではコミカルなタッチで描かれているが、時折入る堀江氏の問題提起が僕には新鮮だった。多くの人にとって刑務所の中の生活は無縁だし、興味も抱かない。しかし堀江氏ほどの頭脳・影響力がある人が発信することで、刑務所という存在が少しだけ身近なものに感じられる。(実際、僕は堀江氏がいた須坂刑務所に足を運んだ)

 

  そして僕はこの本から「才能は隠せない」ということを学んだ。

 

  教育隊では基本教練、体力錬成、座学、射撃など内容は盛り沢山だが、必ず得意不得意はある。僕は銃の分解結合が大の苦手で、教育隊の中では最劣等生だった。反対に何をやらせても鈍臭いのに、銃の分解結合だけは異常に速い隊員もいた。これらは分かりやすいものだが、複雑な紐の結び方をいとも簡単に覚えられるのはきっと空間認識能力が高いからだと思うし、人の気持ちが分かるのは共感力が高いからだということができると思う。とにかく教育隊では命令されたことはやらなければならないのだから、初めてやることであっても全力で取り組んで欲しい。その上でどうしてもダメなら、きっとそれは君には向いていないだけなのであり、他の向いていることを見つけるまでだ。教育期間中は常に時間に追われることになると思うが、そのような状況に置かれて初めて自分の才能に気づくのかも知れない。

 

  ありきたりな言葉だけど、人生に無駄なことなんて1つもない。僕は1任期2年間しか自衛隊にいなかったけど、学校や会社では得られない情報・知恵に触れられたと思っている。毎朝ラッパの音で起きていたことも、今となっては懐かしい。

 

 

 それでは、 健闘を祈る。

 

 

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