自衛隊で何を学ぶか

元脱サラ自衛官の気づき

芸は身を助く

 
 今年度入隊した新隊員は、後期教育の終盤に差し掛かってきた頃でしょうか。後期教育は前期とは違って、職種によってその内容が大きく異なります。普通科では実践的な戦闘訓練を行うために前期教育以上の体力が求められるでしょうし、反対に後方支援系の職種では座学による専門知識の習得が求められます。職種選択に先立って行われる適性検査では、自分がどの分野に向いているかがざっくりと判定されるのですが、適正とやりたいことが一致するとは限りません。それでも前期教育が終われば、新隊員は全員、何かしらの職種を選択し、その職種で自衛隊生活を送らなければならないのです。
 

私の後期教育

 
 後期教育の実際は前期教育以上に「人による」と言えるでしょう。なぜなら職種ごとに教育内容が全く異なることに加え、本人の適正の有無が、教育を楽しいものにも辛いものにもしてしまうからです。私は後方支援系を希望し、適正有りと判断されたことから希望が通りました。そこは陸上自衛隊では数少ない「首から上」を主に使う職種でした。
 
 座学で大半の時間が占められた私の後期教育は、前期では味わえなかった優越感に浸ることが出来ました。教育中の成績は常にトップで、合格基準も早々にクリア。後期教育の生活にもどこか余裕が生まれ、苦手としていた体力錬成にも積極的に取り組むことができ、自分でも驚くほど記録が伸びました。
 
 一方で後期教育の終盤に差し掛かっても基準をクリアできない隊員もいました。本人にしてみれば、出来ないことを毎日やらされ、地獄のような日々だったでしょう。その彼は連日連夜補習を受け、営内では泣きながら親に電話していることもありました。それでもやらなければならないのが自衛隊の辛いところですが、裏を返せば「それだけ」をやれば飯を食っていけるのが自衛隊です。自衛隊では自らが希望しない限り職種が変わることは稀で、定年まで同じ職種を勤め上げます。途中で転属や事務方への異動はあるものの、原隊と呼ばれる教育後最初に配属された部隊でほとんどの時間を過ごすことになります。
 
 
 これは後期教育修了後に聞いた話ですが、特技を教える側の教官も大変なプレッシャーと不安を感じていたようです。教官は部隊から臨時で派遣されており、大抵は自らの教え子を派遣元の部隊に送り込むことになります。もしも自分の教え子の練度が低く、部隊が求める水準に達していなかったら…。そんなプレッシャーがあったからこそ、連日の補修が行われたのでしょう。
 

もし特技に自信がなかったら

  
 後期教育の内容についていけない、あるいはやっていて全然面白くない。そんな新隊員はきっと部隊へ配属されるのが怖いはずです。なぜなら教官からは部隊の恐ろしさを嫌というほど聞かされているでしょうし、何より部隊にはその職種で何年何十年と食ってきた人たちが待ち構えているからです。
 
 
 そんな新隊員に私から何か言葉を送るとすれば、新隊員の優秀さは特技の練度では決まらない、ということです。もちろん特技が素晴らしいことに越したことはありませんが、以下にあげられるようなことも、立派な特技だと思うのです。
 
 
笑いのセンスが抜群で、先輩隊員から可愛がられる
特技はダメでも、首から下なら誰にも負けない
特技も体力もダメだが、とにかく素直で気が利く
紹介できる女の子をたくさん知っている
 
 
 最後のは冗談だとしても、新隊員に求められるのはいかに早く部隊に溶け込むかです。たとえ同期の中で成績がトップで優秀だと評価されていても、それは「新隊員としては」という条件つきです。部隊に着隊することは、本当の意味で自衛官になることです。異なる価値観、不慣れな環境、理不尽な命令。それらに適応できるかが問われているのです。
 
 
 ほとんどの新隊員にとっては、自衛隊の部隊が初めての「職場」になるかと思います。最初は部隊に違和感を感じるかもしれませんが、自分と似たような先輩がいるはずですので、よく観察してみることをお勧めします。自衛隊で生き残る「知恵」を学びとることができるしょう。